力が欲しいか・・・!?【Project YU-GI-OH!】
「力が欲しいか・・・!?」
そう、この声を聞いたのはちょうど一年前。
ようやく梅雨も明け、これから本格的に夏が始まる頃。
ある一つの神と俺は対峙していた。
そんな奇妙で非常識な出会いが起きた、一コマのお話。
「うーん、、新しいテーマ転生炎獣に、リメイクされて新たに強化されるサンダードラゴン、デッキや墓地からモンスターを特殊召喚させ、連続リンク召喚へ繋ぐオルフェゴール、PlayMakerが使う融合モンスターも収録されるのか…!」
俺は一人の決闘者(デュエリスト)として、2018年7月14日に発売される『Soul Fusion』に収録される、新規カードたちを家にあるパソコンで眺めながら頭を悩ませていた。
「この転生炎獣って同名モンスターを素材にリンク召喚すると効果を発揮するのか。え?シンプルにサンダードラゴンって強くない?」
「次の発売記念ショップ大会、どのテーマ組んでいこうかなぁ…」
僕が住んでいる所は超がつくほど田舎。
自転車で30分ほど行ったところの寂れたアーケード内にある小さなカードショップで開かれる、参加者10人ちょっとの小規模な大会のことである。
とはいえ、この近辺の人口密度や『決闘者(デュエリスト)」の数を考えると十分すぎる結果を残せる。
「発売明日だもんなぁ…、さすがに絞らないと構築間に合わないもんなぁ」
先程も言ったように、超田舎である上、人口も少ないので、参加者の元々所持しているカードプールで力の差が出にくいよう、発売記念大会に限り「新弾を購入し、そこに収録されているテーマを使用する」という地元ルールが存在する。
要は半分”シールド戦”みたいなものだ。
開封から構築まで制限時間が決まっており、予めある程度頭の中で用意しておかないとぜんぜん時間が足りないのである。
『転生炎獣』『サンダードラゴン』『オルフェゴール』の3テーマが三つ巴の戦いをするだろうと予想している。
「うーーん、やっぱサンダードラゴンにしよう!カッコいいし、この超雷龍ってやつ強そう!」
この決断が、後の不思議な体験を導こうとは思いもよらなかったのである。
~発売日当日~
ガラガラガラ…
「おぉー!来たか!」
「おはよー!」
「もうあけてんじゃねーよ!」
「お!それ交換してくれよ!」
扉を開けるといろんな声が飛び交う。
違う学校の生徒や、年上年下関係なくみんな楽しそうに話している。
「お前なんのテーマ組むの??」
「俺はオルフェゴールかな!」
「まじで!強いの?」
「すごい展開あるし、ロンギルスっていうリンクモンスターがめちゃめちゃ強いんだぜ!」
「俺はサンダードラゴンかな!」
「やっぱドラゴンってカッコいいよな!」
そんな話をしながら、時間が来るのを待った。
……………。
「それでは、本日のSoul Fusion発売記念大会始めます~」
それまで、新しいカードが発売され”それ”が手に入るワクワクした和やかな空気から、これから決闘に向かうんだという、少し尖った空気へ変えるコールが鳴り響く。
「おぉ!ついに始まったな!」
「おう!とりあえずパック買おうぜ!」
「よし!決勝戦まで負けんじゃねぇぞ!」
”友”から”好敵手”へ変わる挨拶を交わし、僕らは剣(カード)を買いに向かうのであった。
「よしよし、少ない割には結構良いカードがでたぞ!」
「ちゃんと超雷龍もでた!スーパーレア枠だったからちょっと不安だったんだよな」
前日に構築を頭の中に叩き込んできた成果が発揮される。
購入できる数に限りが有ることもあり、完璧に納得出来る枚数というわけではなかったが、それなりに満足出来る構築となった。
構築時間にも数分余裕が出たので、一人でデッキを回しながら初戦に備える。
「構築時間終了となります!」
ついにきたか…。
これなら行けると自身に満ち溢れた表情で、発表された初戦のマッチングテーブルへ向かう。
「よろしく!」
「こちらこそ!」
熱い握手を交わしデッキを準備。
恐らく相手は転生炎獣だろう。
近くで構築していたので、耳に入ってくる会話で簡単に予想がついた。
初めて使うカードで勝てるだろうか…
プレイングミスしないだろうか…
しかし悩んでいても仕方がない!
状況は相手も同じ!
自分の組んだデッキを信じるしかない!
「それでは開始してください!」
「よろしくお願いします!」
ついに始まった。
先攻は僕からだ。
墓地にある『雷獣龍サンダードラゴン』を、手札の『雷鳥龍サンダードラゴン』の効果で特殊召喚し、エースモンスター『超雷龍サンダードラゴン』を用意できたり、それなりに理想の動きができたと思う。
初めて使うデッキにしては上出来だろう。
しかし、甘かった。
いや、転生炎獣を舐めていたのかもしれない。
まさか、あんないとも簡単に突破されてけされるなんて。
もちろん結果は敗北。
一度”動き出してしまった”ことを許してしまうと止め処がない。
強かった…。
悔しかった…
自分のプレイングの下手さを呪った…
2回戦目が始まるまでの間、一度外へ出た。
気分を切り替えたくて。
気持ちが変わると信じて。
そこで俺は出会った。
いや、出会ってしまったといったほうが適切だろう。
神と自称するあの龍と。
「力が欲しいか・・・!?」
どこからともなく聞こえてきた、直接脳に語りかけてきているのだろうか。
「力が欲しいか・・・!?」
その声に、不思議と恐怖はなかった。
むしろ妙な高揚感すら覚えた。
「力を欲するならば、我を手にせよ・・・」
購入したパック。
そう、Soul Fusionのカードの束から聞こえてくる。
「うん…?なんだこれは…?」
その束の中から、1枚光り輝くカードがある。
「神の力を手にせよ・・・!」
【竜絶蘭】
トークン以外のモンスター2体以上
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。お互いの墓地のモンスターの種族とその数によって以下の効果を適用する。
●ドラゴン族:その数×100ダメージを相手に与える。
●恐竜族:このカードの攻撃力はその数×200アップする。
●海竜族:相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力はその数×300ダウンする。
●幻竜族:自分はその数×400LP回復する。
この弾にて新規収録されたリンクモンスター。
お互いの墓地に存在する指定されたモンスターの種類によって、様々な効果を発動するモンスター。
「こ…こいつは…」
「確かにサンダードラゴンをメインに使っている。タイミングを見てリンク召喚すれば、最後の一撃にもなりうるバーン効果が使える…っ」
「しかし、い…いらない……」
「効果ダメージで追い打ちできるのは良いんだけれど…」
「今、欲しいサポートはそこじゃない…」
「力を欲するならばっ!」
「いらない…っ!ごめん、キミじゃないんだ…っ」
「………。」
どれくらいの沈黙だっただろう。
一時間にも、二時間にも感じた。
「………。」
「二回戦、マッチング発表しまーす」
店内から、次の戦いが始まる声が聞こえた。
「あ、いかなきゃ。」
ふ、と我に返り店内へと足を運ぶのであった。
その後の戦績はというと、勝率的に五分五分と言ったところだろう。
それでも、初戦で一度負けてしまったことにより、自分の中にあったプレッシャーが無くなり、忘れかけていた決闘者(デュエリスト)としての楽しみ方を取り戻したのであった。
そんな、暑い夏の日の出来事。
この暑い夏の日の出来事を忘れないだろう。
「今日の大会、楽しかったなー。」
~1章 完~